第221回: 2013/5/9(木) 15:30-16:30

遠藤 光(Delft University of Technology) 「アストロフォトニクス:オンチップ超伝導分光計DESHIMAの研究開発」

Abstract:
私のねらいは、超伝導光路などを用いて、ミリ波サブミリ波帯でアストロフォトニクス(Astrophotonics)[1]を
展開することである。多くの天文観測装置、特に遠赤外より短波長の領域ではこれまで、自由空間を伝搬する
光を反射/屈折光学系で操作する方式が採用されてきた。そこへ近年、急速に進歩したフォトニクス技術に
よって、光ファイバーやオンチップ光路などを用いて光を操作することが現実的となった。これにより、
装置の高性能化・多機能化・簡素化・小型化を追求するアプローチが、アストロフォトニクスである。
さて、ミリ波サブミリ波帯は、光子のエネルギーが複数の超伝導体のエネルギーギャップを跨ぐため、
超伝導電子対と常伝導電子の2つの流体の性質を利用して光路を構成できる点で特徴的である。また、
2万素子を超える多素子化技術、3オクターブにわたる超広帯域アンテナ、低消費電力かつ原理的に
サブミリ波帯まで動作可能な超伝導パラメトリック増幅器、低損失かつ柔軟なリボン導波路などの新技術が
次々に出現しており、「アストロフォトニックなアプローチによる技術革新の機会」という観点で
きわめて肥沃な領域に見える。
 このような状況の下、我々TU Delft/SRON/Leidenのオランダグループは、オンチップ
超伝導フィルターバンクとMKID検出器を用いた超広帯域サブミリ波分光の原理を考案し[2]、
この原理に基づく最初の分光装置DESHIMA (Delft SRON High-redshift Mapper)の研究開発を進めてきた。
2013年に入って、実験室で600-700GHz帯での分光実証にも成功し[3]、東大IoA、国立天文台、JAXAの
日本グループがDESHIMAのASTE搭載に向けて研究開発に参加する。

本講演では、我々が世界最高感度かつ最大素子数を達成しているMKID検出器、21,500画素の2色サブミリ波
カメラA-MKID、オンチップ分光計DESHIMAの最新成果を紹介した上で、アストロフォロニックな
多天体分光計、超広帯域撮像装置などの可能性を議論したい。

[1] Bland-Hawthorn and Kern, Phys. Today 65, 31 (2012)
[2] Endo et al., J. Low Temp. Phys. 167, 341 (2012)
[3] Endo et al., arXiv:1303.7151 [astro-ph.IM]

第220回: 2013/4/26(金) 13:30-14:30

Malte Schramm (The University of Tokyo/IPMU) "The co-evolution between black hole and galaxy over the past 12 billion years."

The tight link between the masses of supermassive black holes and
their host galaxy spheroids (BH/bulge correlation) observed today suggests a
more fundamental connection between black hole growth and star-formation.
However, when and how this connection was forged remains a significant
unsolved problem for astronomers. During my talk I will present my recent work
to explore the BH/bulge correlation over cosmic time and I will discuss our
efforts to measure the BH and bulge masses consistently out to z~4 using high
resolution imaging which includes HST and SUBARU/IRCS+Adaptive Optics data.

第219回: 2013/4/18(木) 15:30-16:30

真喜屋 龍 (東京大学天文学教育研究センター) 「宇宙論的銀河形成モデルへの新たなフィードバック機構の導入」

近年の観測から、銀河のガス面密度やダスト面密度が小さくなると
星形成効率が急激に低下することがわかってきた (e.g., Kennicutt 2012) 。
これは、ダスト面密度が小さい銀河では UV photon が浸透しやすく水素
分子の破壊や dust photoelectric heating によるガスの加熱が起こり星形
成が抑制される、と考えれば自然に理解することできる。
我々は今回、このようなダストの面密度に依存した星形成則を我々の持つ
宇宙論的銀河形成モデルに導入し、銀河形成史にどのような影響を与える
かを調べた。結果として、このようなダスト面密度に依存した星形成則を
考えることで、小質量銀河での星形成を抑えつつ同時に大質量銀河の早期
形成が促進されることがわかった。またそれによって、銀河の光度関数の
進化を従来のモデルより自然に再現できることがわかった。

第218回: 2013/4/11(木) 15:30-16:30

小麦真也(国立天文台ALMA東アジアセンター)「星形成則の多変数化:星間物質の基本平面の発見」

銀河は数kpcのスケールではガス密度に対して星形成率が指数関数的に増加する
という経験則がある。近年、巨大分子雲のスケール(~100pc)ではこの法則が
成立しなくなる事がわかってきた。このスケールでは分子雲個々の進化段階が大
きく関わってくるためだと考えられている。一方、分子雲から星を形成する上で
は進化段階以外にも星間塵や星間輻射場、高密度ガス成分の量など多くの変数が
関わってくることは明らかである。我々は、この複雑に相互作用しかつ時間変化
するシステムを統一的に説明するために野辺山の45m電波望遠鏡やASTE望遠鏡、
データベースなどを利用して超近傍の銀河M33の分子雲に対して多変数解析を行った。
その結果、巨大分子雲のスケールでガス密度と星形成率はたしかに相関しないが、
ダストや星間輻射場、高密度ガスなどを含めるとこれらの変数は3次元での平面を
二つ構成する事がわかった。これらが他の銀河でも一般的なものであれば、系内・
近傍銀河・遠方銀河の研究をつなぐ重要な結節点となる可能性がある。

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