研究進捗評価(平成23年5月)時点での成果概要

(1)初期宇宙におけるダストに隠された爆発的星形成銀河(サブミリ波銀河)の膨大な発見と、その追及観測・解析。

波長1.1mm帯のカメラAzTECをサブミリ波望遠鏡 ASTE に搭載して行った重点的な掃天観測により、合計1400個以上ものサブミリ波銀河を検出することに成功した(図1)。この膨大なデータをもとに、すばる望遠鏡やあかり衛星等のデータと比較しつつ、以下のような成果を得ている。

  1. 明るいサブミリ波銀河、約20個が、赤方偏移3.1の初期宇宙の狭い領域に密集している現場を初めて発見[5]。すばる望遠鏡による輝線銀河との2点相互相関解析により、これらの爆発的星形成銀河が、暗黒物質による大規模構造に付随していることを初めて示した。
  2. サブミリ波銀河の、かつてない精密な銀河計数の測定と、宇宙星形成史への制限[2]。波長1.1mmでの深い撮像観測により、極めて高い打率で初期宇宙の爆発的星形成銀河が検出できることを実証した。
  3. 2体相関関数解析による、暗黒物質ハロー質量の推定。サブミリ波銀河が、極めて大質量のハローに付随していることを示唆する結果を得た。
  4. SMAなど既存のミリ波サブミリ波干渉計を使った個別サブミリ波銀河の詳細研究。基本的物理量の測定[4]、大規模構造に付随する、ダストに深く隠された原始クエーサーの発見[3]、重力レンズにより強く増光された、初期宇宙(赤方偏移約3.4)にあるサブミリ波銀河の発見[1]、等の成果を得た。
ADFS.jpg

図1:ASTE望遠鏡(左下)により得た、ADF-S領域の、波長1.1mm帯画像。白い点の一つ一つが新たに検出された爆発的星形成銀河(右上の想像図)である。この画像には、198個の銀河が検出されているが、「あかり」衛星データとの比較解析により、検出天体のほとんど(196個)が、初期宇宙(80億光年以上)の爆発的星形成銀河であることが分かった。

(2)超伝導遷移端センサー(TES)ボロメーターを用いた多色カメラの開発。

現在、第一フェイズとして、2波長(1.1mm帯・0.87mm帯)同時観測を実現する、合計400画素のカメラ・システムがほぼ完成し、ASTE望遠鏡への搭載準備が進んでいる。また、解析ソフトウエアや、新しい観測アルゴリズムの手法開発も進展した。

TESarray.PNG

図2:開発した0.87mm帯超伝導ボロメーターアレイのウエハ(左下)。1素子を拡大するとスパイダーウェブ構造が見える(中央)。その中心付近に、超伝導遷移端センサー(TES)が配置されている(右下)。

(3)超広帯域ヘテロダイン分光受信機システムの開発・野辺山45m鏡への搭載と科学観測の開始。

現在までに、100GHz帯において、周波数帯域16GHzという非常に広い帯域での高分散分光が可能になり、高赤方偏移銀河からのCO輝線の検出にも成功した。また、超広帯域分光装置Z-Spec を CSO10m鏡 に搭載し、発見した天体の中で特に明るく興味深いサブミリ波銀河の分光観測を行った[1]。

これまでの主要な出版論文5編のリスト

[1] Ikarashi, S., Kohno, K., and 31 coauthors, “Detection of an ultra-bright submillimeter galaxy in the Subaru/XMM-Newton Deep Field using AzTEC/ASTE”, MNRAS, in press (2011)

[2] Hatsukade, B., Kohno, K., and 21 coauthors, “AzTEC/ASTE 1.1-mm Survey of the AKARI Deep Field Southsource catalogue and number counts”, MNRAS, 411, 102-116 (2011)

[3] Tamura, Y., 12 coauthors, Kawabe, R., Kohno, K., and 7 coauthors, “Submillimeter Array Identification of the Millimeter-selected Galaxy SSA22-AzTEC1: A Protoquasar in a Proto- cluster?”, ApJ, 724, 1270-1282 (2010)

[4] Hatsukade, B., 8 coauthors, Ezawa, H., Hanami, H., Ho, P., Hughes, D. H., Kawabe, R., Kohno, K., and 10 coauthors, “Unveiling the Nature of Submillimeter Galaxy SXDF 850.6”, ApJ, 711, 974-979 (2010)

[5] Tamura, Y., Kohno, K., and 19 coauthors, “Spatial correlation between submillimetre and Lyman-α galaxies in the SSA22 protocluster”, Nature, 459, 61-63 (2009)


添付ファイル: fileTESarray.PNG 1394件 [詳細] fileADFS.jpg 1138件 [詳細] file(H23・特推)研究進捗状況報告書公表用資料-河野-提出版.pdf 1081件 [詳細]

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Last-modified: 2012-06-16 (土) 11:00:21