2011年度・東京大学・天文学教育研究センター・談話会

次回以降の談話会

第187回: 2011/12/01(木) 15:30-16:30

松永 典之 氏 (東京大学・天文センター・木曽観測所)

「セファイド変光星で探る銀河系中心領域の星形成史」
"Star formation history in the Galactic Nuclear Bulge revealed with Cepheid variable stars"

銀河系中心は、非常に多くの星・星間物質やブラックホール、強い磁場などが混在する複雑で
興味深い領域である。銀河系中心から200pc程度の領域(Nuclear Bulge)では数Myrの年齢を
もつ大きな星団が見つかっており、今も星形成が起 こっていると考えられている。
また、現在までの星形成が連続的であったことも 示唆されているが(Figer et al. 2004, ApJ, 601, 319)、
その結論は光度関数と の比較によるもので、間接的・暫定的である。
そこで、恒星進化理論から年齢の わかるセファイド変光星の探査を行った。
IRSF望遠鏡およびSIRIUSカメラを用い て、2001年から2008年の間にを行った近赤外線反復観測の結果、
セファイド変光 星を3個発見することに成功した。それらの周期はいずれも20日程度で、
約25Myr の年齢を持つことが分かる。今から25Myr前にNuclear Bulgeで星形成が起こって いたことを
示す初めての証拠である。一方、周期5-19日(30-70Myrの年齢に対応) のセファイド変光星は
見つからなかった。 このことは、数十MyrごとにNuclear Bulge中での星形成率が変化することを
示唆しており、銀河系中心領域での星間 物質の供給・消費などについて重要なヒントを与えるものと期待される。
参考文献:Matsunaga et al. 2011, Nature 477, 188

The region within ~200 pc of the central black hole of our Galaxy, often called the Nuclear Bulge, 
is an ideal place to study star formation activities in galaxy centres in detail. Stellar populations 
with a wide range of ages are found in this region, but the star formation history remains uncertain. 
Here we report the first discovery in the Nuclear Bulge of classical Cepheids, pulsating supergiants, 
whose ages can be derived accurately from their periods. All three of our Cepheids have pulsation 
periods near 20 days and an age of close to 25 Myr. In contrast, the absence of shorter-period 
Cepheids shows that the star formation rate was much lower between 30 and 70 Myr ago. 
This indicates that star formation in the Nuclear Bulge varies on a time scale of a few tens of Myr. 
Such detailed star formation histories have never been obtained for central parts of this or 
other galaxies. We discuss a correlation between the gas inflow and star formation around the Galactic Centre.

第188回: 2011/12/08(木) 15:30-16:30

野田 博文 氏 (東京大学・天文学教室)

「X線観測で明らかにする AGN セントラルエンジンの新描像」
"Studying a new picture of AGN Central Engines with X-ray Observations"

AGNのX線放射は、降着円盤や冷たい周辺物質による光子散乱散乱過程、ジェット中の高エネルギー過程
などの観点から、盛んに研究されてきた。しかしセイファート銀河などにおける一次放射の源、
すなわち巨大ブラックホール近傍の高温コンプトンコロナそのものに迫る研究は、
これまで驚くほど乏しかった。
AGNを理解する上で、このセントラルエンジンの理解は、避けて通れない重要課題である。

我々は、広帯域を誇る「すざく」衛星を用い、AGNのX線放射に現れる「相対論的に広がった鉄輝線」や
軟X線超過の起源を見直すとともに、「すざく」によるブラックホール連星 Cyg X-1 の研究とも緊密に連携してきた。
その結果、これまで単一ゾーンで近似されて来たセイファート中心核の高温コロナが、実は様々な電子温度や
光学的厚みから成るマルチゾーン特性をもつという、新しい可能性を見いだした (Noda et al. 2011a, b)。
本談話会では、この着想に至った我々の研究を紹介すると同時に、同様の描像を他種のAGNで検証した結果や、
開発中の次期X線天文衛星ASTRO-Hを視野に入れた将来の研究についても触れたい。

第189回: 2011/12/15(木) 15:30-16:30

松元 亮治 氏 (千葉大学)

「円盤ダイナモとブラックホール候補天体における状態遷移の磁気流体数値実験」
"Magnetohydrodynamic Simulations of Disk Dynamos and State Transitions in Black Hole Candidates"

Three-dimensional magnetohydrodynamic(MHD) simulations revealed that quasi-periodic dynamos 
driven by the magneto-rotational instability and Parker instability are excited in accretion disks and 
in galactic gas disks. 
The quasi-periodic dynamo can be the origin of low-frequency (1-10Hz) quasi-periodic oscillations 
 (QPOs) observed in galactic black hole candidates. 
By carrying out global three-dimensional MHD simulations of black hole accretion disks, we found 
that the transition luminosity from X-ray hard state to X-ray soft state depends on the azimuthal 
magnetic flux in the accretion disk. We discuss how the evolutionary track in the color-luminosity 
plane is determined in black hole accretion flows.

降着円盤や銀河ガス円盤などの差動回転円盤では磁気回転不安定性とパーカー不安定性の相乗効果によって
駆動される準周期的なダイナモが発生することが、3次元磁気流体シミュレーションによって明らかになった。
このような準周期的ダイナモは銀河系内のブラックホール候補天体で観測されている1-10Hzの準周期振動
(Quasi-Periodic Oscillation:QPO)の起源になっている可能性がある。
輻射冷却を考慮した大局的な3次元磁気流体シミュレーションの結果、ブラックホール候補天体で観測される
色-光度図上の進化経路、特に硬X線が強いハードステートから軟X線が強いソフトステートへの
状態遷移光度は円盤内部の方位角方向の磁束量に依存することが示唆された。
降着率変動に伴う降着円盤の進化を、3次元磁気流体計算結果に基づいて議論する。

趣旨

東京大学・天文学教育研究センターでは2003年4月から, 院生コロキウムに引き続き, 談話会を開いています.
第一線で活躍されている研究者の方々を講師にお招きし, 最先端の研究成果をお話しいただきます.
講師の方には, 大学院生の参加者のことも考慮し, レビュー的な側面も含めた上で, ご自身の研究紹介をお願いしています.

日時

場所

タイムテーブル

13:30-14:30院生コロキウム講義室
15:30-16:30談話会講義室
16:30-お茶の時間講義室横のお茶部屋~講師の方を交えて~

世話人

予定

#日付講演者 (所属)タイトル
1872011/12/01(木)松永 典之 氏 (東京大学・天文センター・木曽観測所)「セファイド変光星で探る銀河系中心領域の星形成史」 "Star formation history in the Galactic Nuclear Bulge revealed with Cepheid variable stars"
1882011/12/08(木)野田 博文 氏 (東京大学)「X線観測で明らかにする AGN セントラルエンジンの新描像」"Studying a new picture of AGN Central Engines with X-ray Observations"
1892011/12/15(木)松元 亮治 氏 (千葉大学)「円盤ダイナモとブラックホール候補天体における状態遷移の磁気流体数値実験」"Magnetohydrodynamic Simulations of Disk Dynamos and State Transitions in Black Hole Candidates"
-2012/02/02(木)菅井 肇 氏 (東京大学・IPMU)未定
-2011/xx/xx(x)西澤 淳 氏 (東京大学・IPMU)未定

終了した談話会(今年度)

詳細はこちら: 平成23 (2011) 年度談話会

#日付講演者 (所属)タイトル
1772011/05/19(木)田村 陽一 氏 (東京大学・天文センター)「ASTE搭載用超伝導転移端センサ型ボロメータカメラとALMA初期科学運用」
1782011/06/16(木)Michael Richmond 氏 (Rochester Institute of Technology)"Looking for eclipsing RR Lyr stars in the MACHO database"
1792011/06/30(木)田中 賢幸 氏 (東京大学・IPMU)"A new method to identify AGNs and the nature of low-luminosity AGNs"
1802011/07/07(木)橋本 哲也 氏 (国立天文台)"A hint of AGN feedback: Shock heating of ISM induced by a jet in NGC 1068"
1812011/07/21(木)柏川 伸成 氏 (国立天文台)「AKB48 vs. NMB48 vs. SKE48, そして LAE45vs.LAE54」」, "Completing the Census of Lyα Emitters at the Reionization Epoch"
1822011/07/28(木)上塚 貴史 氏 (東京大学・天文センター)Mid-infrared spectral monitoring toward AGB stars - Probing the formation of circumstellar dust -
1832011/10/06(木)眞山 聡 氏 (総研大)「すばる+ALMA及びコンピュータシミュレーションで探る連星系原始惑星系円盤」"Subaru + ALMA Observations and numerical simulations of Protoplanetary Disks in a Young Multiple star"
1842011/10/13(木)Gaston Folatelli 氏 (東京大学・IPMU)"What spectra reveal of Type Ia Supernovae"
1852011/10/17(月)Wolfgang Gieren 氏 (Universidad de Concepcion)"Improving the extragalactic distance scale with stellar distance indicators: The Araucaria Project"
1862011/11/24(木)高橋 英則 氏 (東京大学・天文センター)「近赤外分光撮像観測によるWolf-Rayet星の探索」 "Search for Wolf-Rayet stars by NIR imaging spectroscopy"

昨年度までの談話会


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