研究テーマ

主に「ミリ波・サブミリ波」と呼ばれる波長帯での観測に基づき、宇宙におけるさまざまな天体の形成や進化、特に、活動的な銀河の形成と進化の過程を解明することに興味を持っています。

ミリ波サブミリ波で観測すると何がおもしろいか?

こうした背景・興味に基づき、本研究グループでは、主に、以下のようなテーマについて、ミリ波サブミリ波での観測を軸とした研究を進めています。

ダストに隠された非常に激しい爆発的星形成銀河の探索と、それに基づく、大質量星形成銀河の形成と進化の研究

宇宙における星形成活動は、ある割合は星間ダストによって覆い隠されており、若い大質量星本来の放射である紫外線や可視光では直接見ることができず、かわりに、赤外線によってはじめて観測することができます。若い星からの強い紫外線や可視光が、星の周囲の星間ダストによって吸収されると、星間ダストは数10K程度の温度に暖められ、その熱放射が、赤外線域で観測されるわけです。このような星形成銀河が、初期宇宙に存在すると、赤外線として放射された電磁波は、我々のところに届くまでに、宇宙膨張の効果で波長が引き延ばされ、より波長の長い電磁波である、サブミリ波帯やミリ波帯で効果的に観測される、ということになります。(詳しくは、ミリ波サブミリ波天文学への招待を参照して下さい。)

このような観点から、私達は、ミリ波サブミリ波帯のカメラをサブミリ波望遠鏡ASTEに搭載し、掃天観測を実施することで、初期宇宙に存在するダストに隠された爆発的星形成銀河を多数発見し、その性質や距離を調べていくことで、宇宙における真の星形成の歴史をひもとき、また、その銀河を宿している暗黒物質の塊(ハロー)の変遷にまで迫ろうと考えています。あわせて、初期宇宙に存在する、多量のダストを持った活動的な天体( クエーサーや電波銀河)における埋もれた星形成の観測的研究も行っています。

ASTE望遠鏡搭載AzTECカメラを用いた銀河探査

日本の赤外線衛星「あかり」とタイアップして行った、AKARI Deep Field South (ADF-S)領域でのdeep survey。

GOODS-S fieldでのdeep survey

COSMOS fieldでのdeep survey

原始銀河団 SSA22領域でのAzTEC deep surveyと、Lyα輝線銀河によりトレースされたz=3.1の大規模構造へのサブミリ波銀河の密集の発見

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重力レンズ効果により強く増光された極めて明るいサブミリ波銀河の発見

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高赤方偏移クエーサー母銀河における星間物質とその進化

BR1202-0725 (z=4.7)におけるCO輝線の検出と高分解能観測。莫大な分子ガスが存在し、銀河スケール全域で爆発的星形成が進んでいることが明らかになりました。

大規模構造の「谷底」における形成途上のクエーサー(原始クエーサー)の候補天体の発見。

銀河中心領域の活動現象とミリ波サブミリ波分光に基づく新しいエネルギー源診断法の開拓

いろいろな銀河の中心領域では、非常に活動的な、華々しいエネルギー放出現象がしばしば観測されます。そのメカニズムは、大別して2つあると考えられます。

一つが、若い大質量星の連鎖的・爆発的な誕生による、強い放射の発生です(爆発的星形成、あるいは、スターバースト starburst と呼びます)。若い大質量星は、寿命が短く、あっという間に超新星爆発を起こしますので、スターバーストを起こしている銀河では、連鎖的な超新星爆発によって、大規模な高温ガスの流出(アウトフロー)が引き起こされることも珍しくありません。

もう一つのメカニズムは、太陽質量の数100万倍~あるいはそれ以上、という、極めて質量の大きい、超巨大ブラックホール(super massive black hole、略してSMBHと書きます)と、その周囲におけるガスの円盤(降着円盤と言います)からなる系により、その外側にある物質(星や星間物質)を引き付け、重力エネルギーを解放することで、強いエネルギーを放射する、というものです。このような現象を伴う銀河の中心領域(中心核)を、活動銀河核(active galactic nucleus; AGN)と呼びます。

いずれの現象も、その「燃料」は星間物質であると考えられており、これらの活動現象を理解し、さらに、過去の宇宙に遡って、これらの現象の進化を解明していくためには、これら活動的な銀河における星間物質の観測的研究が本質的に重要です。ミリ波サブミリ波帯は、星間物質、特に低温の濃いガスを観測する上で最も基本的かつ重要な観測手段を提供してくれる波長帯であり、私たちは、このミリ波サブミリ波帯での銀河中心領域の高解像度観測によって、活動現象と燃料の関係、その構造、運動状態、物理状態、また、化学的な性質をも調べ、その宇宙の歴史における変遷に迫りたいと考えています。

また、初期宇宙にある、形成途上の銀河の多くは、非常に多量の星間物質を持つため、可視光や赤外線、X線などでは、中心核まで見通せないことがあります。そのような、「隠された」銀河核でも、ミリ波サブミリ波の放射は、基本的に突き抜けて見通すことができます。この透過性の高さを利用して、ダストに隠された銀河核の中で起きている現象を「診断する」手法も提案しています。これは、エネルギー発生源によって、放射されるエネルギーのスペクトルが異なるため、その周囲の星間物質中における物理・化学状態に違いが出てくることを利用します。ミリ波サブミリ波で観測される、さまざまな分子や原子からの放射を系統的に観測することで、分子の励起状態の違いや、分子組成の違い、などを見つけ出し、それらを手掛かりとして、他の波長では迫ることのできない、ダストに深く隠された若い形成途上の銀河の核心を明らかにすること、これが我々の目標です。

活動銀河核におけるシアン化水素(HCN)分子輝線強度の卓越の発見。

深く埋もれた2型活動銀河核 M51での異常なHCN(1-0)/CO(1-0)輝線強度比の発見

M51や低光度1型活動銀河核 NGC 1097等での異常な HCN(1-0)/CO(1-0)輝線強度比

ALMAを用いた低光度1型活動銀河核 NGC 1097でのサブミリ波HCN(4-3)輝線の観測と、サブミリ波HCN輝線に基づく新しい診断法の提唱

超高光度赤外線銀河におけるHCN/HCO+輝線強度比の測定。

近傍にある代表的な2型活動銀河 NGC 1068における C2H, Cyclic-C3H2など炭素鎖分子の検出

ALMAを用いた2型活動銀河 NGC 1068におけるダスト関連分子の高解像度イメージング

近傍星形成銀河における高密度分子ガスと星形成則

宇宙における星形成の歴史に迫るためには、星形成という現象の素過程、すなわち、物理的・化学的なメカニズムを理解しなければなりません。そのような素過程に迫るためには、遠方の銀河よりも、距離が近い銀河、すなわち、空間的に小さいスケールの構造まで見分け、かつ、微弱な信号まで捉えやすい銀河が研究対象として適しています。

私達は、我々の住む天の川銀河の、すぐお隣にあるマゼラン銀河や、アンドロメダ銀河(M31)、三角座の銀河(M33)などをはじめとした、距離が数10Mpc以内にある様々な近傍銀河における星間物質=星形成の材料を観測し、他の波長のデータとも突き合わせて、星形成という現象が、どのような物理法則に従って発生し、進化し、終了するのか、また、その規模(激しさ)や、その形態(星の集団=星団として生まれる場合と、そうでない場合)を決める物理は何か、などの答えを掴みたいと考えています。星間物質、特に、密度の高い分子ガスは、星形成の直接的な材料であり、本研究室では、その観測的な研究を重視しています。

銀河における高密度分子ガス分布と星生成活動

棒渦状銀河NGC 6951における高密度分子ガスと星生成の空間的相関の発見

近傍渦状銀河 M33 における超巨大HII領域 NGC 604での星生成メカニズム

棒渦状銀河 M83での巨大分子雲と星生成

早期型銀河における分子ガス

ポスト・スターバースト銀河における大質量分子ガス円盤の発見

電波銀河 3C31における星生成を伴わない大質量分子ガス円盤の発見

ガンマ線バースト母銀河における星形成と星間物質

初期宇宙における星形成活動に迫るための、もう一つの有力な手段が、ガンマ線バーストという現象を利用することです。ガンマ線バーストとは、文字通り、ガンマ線がバースト状に強く観測される現象ですが、そのバーストの継続が数秒~数10秒続く、「長いバースト」の場合は、非常に質量の大きい星の終末に起こる大爆発がその原因であると考えられています。一方で、このガンマ線バーストは、宇宙で最もエネルギーの大きい爆発と言われるくらい、激しいもので、極めて明るく輝きます。従って、非常に初期の宇宙でこの現象が起きても、我々は、いま稼働している望遠鏡によって、その放射を捉えることができます。実際、現在、人類が知っている、最も遠方の(初期宇宙の)天体は、赤方偏移8.3に起きたガンマ線バーストなのです。

私達は、このガンマ線バーストを宿している銀河(ガンマ線バースト母銀河、と呼びます)に着目し、その銀河が持つ星間物質やそこでの星形成を調べたいと考えています。ガンマ線バーストの発生と、そこでの星形成活動とには、ある関係がある筈で、そこが確立されれば、ガンマ線バーストの発生率を調べていくことで、初期宇宙における星形成活動を推定し、調べることが可能になると期待されます。ガンマ線バースト母銀河でも、中には、多量のダストを持ち、可視光では見えない、隠された星形成を持っているという可能性も指摘されています。これを実際にミリ波サブミリ波の観測で検証し、ガンマ線バーストやその母銀河という、謎に満ちた天体の正体に迫るとともに、これを利用した、宇宙の星形成史の解明を目指します。

ガンマ線バースト母銀河におけるCO輝線の初検出と、ガンマ線バースト発生場所における異常に低いガス/ダスト質量比の発見。ガンマ線バーストが、通常の星生成領域とは異なる環境で発生している可能性を明らかにしました。

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ガンマ線バースト母銀河における分子ガス探査。我々のグループは、世界に先駆けてこの研究の重要性に着目し、2003年に発生したモンスター・バーストと呼ばれるGRB030329の観測を契機として、研究を進めてきました。

ミリ波サブミリ波観測機器の開発

これらの観測的研究を実現する上では、時に、自ら必要な装置を立案・開発することも求められます。この波長帯は、まだまだ技術的に未熟である半面、言いかえれば開拓の余地の大きい、フロンティアでもあります。たとえば、近赤外線や中間赤外線では、カメラを米国の企業から購入しなければなりません(日本では、同等の性能のカメラを作ることが実質的には不可能)。しかし、ミリ波サブミリ波帯では、検出器を天文学の研究者が自らクリーンルームに入って製作することもあります。そうして、日本でも、世界最高性能の検出器が実際に沢山開発されているのです。

本研究グループでも、国立天文台や他の大学機関等と連携して、南米アタカマ砂漠の高地、標高4860mという場所に、直径10mという、大口径のサブミリ波望遠鏡 ASTE を開発・設置し、そこにさまざまな検出器を開発・搭載して、観測運用を行っています。(2013年からは、国立天文台チリ観測所が運用しています。)

また、デルフト工科大やSRON(オランダ)と協力し、ミリ波サブミリ波版超広帯域分光器 DESHIMA や、これを応用した、ミリ波サブミリ波版多天体同時分光装置 MOSAIC などの開発にも参画しています。

野辺山45m望遠鏡搭載 dual beam広帯域ミリ波観測システムの開発

ASTE10mサブミリ波望遠鏡搭載 350GHz帯サイドバンド分離型(2SB)受信機 CATS345の開発

ASTE10mサブミリ波望遠鏡搭載 超伝導遷移端センサー(TES)カメラの開発

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ミリ波全天大気透過度モニター MiSTIの開発


添付ファイル: fileUmehata2014-fig9-CCF.png 1536件 [詳細] fileOrochi-overview.PNG 1568件 [詳細] file01-b.jpg 1602件 [詳細] file6413181-fig-2-large.gif 1476件 [詳細] filenaoj_alma_grb_140613_01.jpg 1479件 [詳細]

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Last-modified: 2015-09-14 (月) 09:50:05