Abstract:
近年の赤外線・電波観測技術の向上により、原始惑星系円盤の観測的研究が急激に進展している。すばる望遠鏡などの高空間分解能近赤外線撮像観測により、円盤内のギャップや渦状腕構造など、惑星形成を示唆する構造が明らかになってきた。さらに、大型ミリ波サブミリ波望遠鏡ALMAによる高空間分解能・高感度観測は、円盤内の惑星形成領域のガス・ダスト分布や化学構造を明らかにすると期待される。
本講演では、我々の太陽系から最も近傍に位置するTW Hya周りの原始惑星系円盤ガス・ダストのALMA観測の結果について話しする。最近HL Tau円盤のALMA長基線観測により、円盤内のギャップ・リング構造が明らかになったが、我々は、より年とったTW Hya円盤ダストにもギャップ・リング構造が存在することを発見した。22AUギャップの位置は、すばる望遠鏡の近赤外線撮像観測で見つかったギャップの位置と同程度であった。また2バンド長基線観測の結果、ギャップ内では大きなダストが減少していることが示唆された。ギャップが惑星により形成されたと考えると、海王星よりやや重たい質量の惑星でギャップが形成された可能性がある。一方、長基線観測により22AU以遠にもギャップを発見した。それらのギャップは惑星起源と考えるには浅く幅も狭いため、ダスト表面の氷の焼結など別の起源を考える必要がある。
また我々は、13COとC18O分子輝線の観測より、COガスがスノーラインの内側でも非常に少ないことを明らかにした。ハーシェル宇宙望遠鏡によりTW Hya円盤からはHD分子輝線が観測されているが、その結果と我々の結果を比較すると、ダスト/H2ガス比は通常の分子雲と同程度であるのに対し、CO/H2ガス比は通常の分子雲に比べ、2-3桁も減少していることが明らかになった。COスノーラインの内側でもCOガスが減少している原因としては、COがダスト表面反応により、有機分子など、より大きく蒸発しにくい分子になり、ダスト表面に留まっている可能性がある。TW Hya円盤では、最CH3OHも初検出された。CH3OHはダスト表面でCOより生成され、その一部が非熱的脱離により気相に放出されたと考えられる。
Abstract:
DESHIMA(DEep Spectroscopic HIgh-z MApper)はオンチップ型サブミリ波帯フィルターと運動インダクタンス検出器(MKID)を組み合わせた次世代分光器である. DESHIMA第一世代として326-368 GHzの帯域をカバーしたものの開発を進めており,2017年初頭のASTE望遠鏡への搭載及び試験観測を直近の目標としている. オランダのデルフト工科大学とSRONの協力関係の元,昨年(2015年)夏から本格的なDESHIMA装置の組み上げを進めてきた. 今年(2016年)に入ってデルフト工科大学における実験室の整備が進み,6月にはDESHIMAフロントエンド完成と共に,冷却光学系も含めた装置全体の評価を行うことが可能になった.今回は,DESHIMAフロントエンド完成に至る(苦労)話とその性能評価結果についてお話させて頂く.
"Optical Observations of Nonradiative Filaments in Supernova Remnants"
Abstract:
典型的な超新星残骸の可視光スペクトルは、水素のバルマー線に加え、酸素や窒素、硫黄など重元素からの禁制線を示す。これらは、衝撃波によって加熱された星間雲など密度の濃いガスが冷却する際に生じる放射と考えられている。一方、一部の超新星残骸では、重元素からの禁制線を全く示さず、水素のバルマー線が卓越する可視光スペクトルもみられる。これらは衝撃波をトレースする非常に淡いフィラメントとして観測され、その放射エネルギーが衝撃波エネルギーに比べて無視できるほど小さいため非放射性衝撃波などと呼ばれている。その放射メカニズムは、中性ガス(水素)を含む星間媒質を進む(無衝突)衝撃波を素通りした水素が、衝撃波後方で完全電離される前に、励起・電荷交換する際に放たれると考えられている。その分光解析から、衝撃波直後の陽子温度が計測できるため、無衝突衝撃波における電子加熱過程や宇宙線加速を探る貴重なプローブとして重宝されている。本談話会では、我々が実施した非放射性衝撃波の観測結果―「すばる」HDS (long slit)による空間分離・高分散分光観測および木曽 105 cm シュミット望遠鏡による固有運動測定―を中心に今後の期待も交えてお話しする。
東京大学・天文学教育研究センターでは2003年4月から, 院生コロキウムに引き続き, 談話会を開いています. 第一線で活躍されている研究者の方々を講師にお招きし, 最先端の研究成果をお話しいただきます. 講師の方には, 大学院生の参加者のことも考慮し, レビュー的な側面も含めた上で, ご自身の研究紹介をお願いしています.
13:30-14:30 | 院生コロキウム | 講義室 |
15:30-16:30 | 談話会 | 講義室 |
16:30- | お茶の時間 | 講義室横のお茶部屋~講師の方を交えて~ |
# | Date | Speakers | Title |
286 | 2016/7/7 (Thu) 15:30 - 16:30 | 野村英子 (東京工業大学) | TW Hyaまわりの原始惑星系円盤ガス・ダストのALMA観測 |
287 | 2016/7/11 (Mon)※曜日注意! 15:30 - 16:30 | 唐津謙一 (TU Delft) | DESHIMAの近況報告と実験室での性能評価 |
288 | 2016/7/21 (Thu) 15:30 - 16:30 | 勝田哲 (中央大学) | 超新星残骸に伴う非放射性衝撃波(Hαフィラメント)の可視光観測 |
289 | 2016/9/8 (Thu) 15:30 - 16:30 | 大須賀健 (国立天文台) | (TBA) |
290 | 2016/9/29 (Thu) 15:30 - 16:30 | 中村卓史 (京都大学) | (TBA) |
詳細はこちら: 平成28 (2016) 年度談話会
# | 日付 | 講演者 (所属) | タイトル |
283 | 2016/4/14 (Thu) 15:30 - 16:30 | 山口正輝 (東大天文センター) | 位置天文観測による、長周期系外惑星および星質量ブラックホールの探査 |
284 | 2016/6/02 (Thu) 15:30 - 16:30 | 下条圭美 (国立天文台) | ALMAで探る太陽大気 |
285 | 2016/6/23 (Thu) 15:30 - 16:30 | 前澤裕之 (大阪府立大学) | SPART望遠鏡の紹介と、他測器による最近の太陽系惑星観測の動向 |